脚立の上の王様

主に脚立の上に存在します。舞台照明家のはしくれとしてエンタメ業界の底辺の端っこをちょっとだけ支えています。ふらっと海に出たり旅立ったりします。

スーパーの鮮魚コーナーでメディア芸術について考えたこと

六本木に行ったついでに、新国立博物館に寄って文化庁主催のメディア芸術祭の受賞作品展をのぞいてきました。

 

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新国立美術館ってイメージとかなり違う場所でした。
自由度は高いけどその分、空間や場のもつエネルギーは感じない気がします。
門をくぐって中を回って外に出るまで、びっくりするほどワクワクさせられる感覚がなかったですね。

美術館というより展示場みたいな印象でした。
フラットで主張を感じないところとか。
まあその分展示物を見てくれってことなんでしょうが。

お目当てはエンターテイメント部門で大賞をとったingressというゲームの展示でした。
プレイヤーが地図上にあるポータルと呼ばれるポイントを2つの陣営に分かれて取り合う、世界規模の陣取りゲームです。
実際にそのポイントのある場所まで移動しないとアクションができないところが、ネットとリアルの融合っぽくて面白いです。

で今回は展示会場そのものがゲーム世界のポータルにもなっていたのですが・・・・室内のためにぼくの端末では位置を認識してくれずゲットできませんでした (T-T)

しかし展示の周りではスマホタブレットの画面を見ながらプレイに励むエージェント(ingressではプレイヤーをそう呼びます)が数名。
美術館の中で展示物を見ずにスマホをいじっているのもなかなか面白い光景でした。
エージェントからしてみれば展示物よりもゲーム内のポータルのほうが興味深いのもたしかなんですけどね。

場内にはその他にも「メディア芸術」と文化庁からお墨付きをいただいた作品がたくさん展示されています。
アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門があるのですが、個人的に興味のあるアートとエンターテイメントを中心に見させていただきました。

いくつか面白い作品や印象的な展示もありましたが、総じてなるほどねー、という感じでした。
新しい技術や思考をいち早く取り入れている面白さは確かにありますが、作品としてのインパクトや新しさがあるかどうかと言われると微妙なものが多かった気がします。

そもそも「メディア芸術」っなんやねんというところもありますが、この手の新しさに主眼をおいたアート作品の印象って、ぼくはずっと昔から「なるほどねー」で変わらないです。
感心はするけど感動はしません。

 

 

帰り道にスーパーによって夕食の買い物をしました。

鮮魚コーナーにいくと「初カツオのたたき」と「とろカツオの刺身(解凍)」が並んで置いてありました。
というか初カツオ早すぎじゃない!?

カツオ(に限らず魚全体として)は保存技術や漁労技術、流通システムの進歩で以前よりも遠くで漁をすることが可能になったと聞きます。
初カツオが食卓に上るのもどんどん早い時期になってきました。

どっちを買おうかしばし悩みました。
値段的にはとろカツオの方がかなり安いです。
そして手に取ったのは冷凍物のとろカツオの方でした。

食べてみて大満足。脂ものってるし味もしっかりしてました。
初カツオは新鮮かもしれないけど多分そこまでまだおいしくないのではと考えたチョイスが正解だったようです。

でおいしいカツオを食べながら、今日の作品展で感じたことって、スーパーで見た2種類のカツオの違いみたいなものなのかなと思いました。

日本料理には「走り」という言葉があるそうです。
本格的なシーズンより少し前に、市場に出回り始めたばかりの食材のことです。
数が少なく値段も高いのですが、季節を先取りして食べるのが粋だとされています。

でもおいしさでいうと少しタイミングが遅くなっても圧倒的に「旬」の食材のほうがいいのもまた事実です。
豊富に出回ってるので当然値段も安くなってます。

そのどちらを尊ぶかというとその辺りはそれぞれの人の価値観なんだろうなとは思います。
ぼくはどちらかというと安くておいしい旬の食材派ですが、走りを楽しむ感覚というのも充分に理解できます。

創作という行為において常に前のめりに走り続けるという姿勢そのものは素晴らしいことだとは思います。
ただ生み出されるものが常にその姿勢と同じくらい素晴らしいかというと必ずしもそうではないでしょう。

そしてパックグラウンドやコンテクストと作品の与える印象と一致しないことは、アートやエンターテイメント全般においてよくあることでもあります。

創作で大事なことはただ作品それだけです。
新しい技術や手法を取り入れることがよいわけではありません。枯れた技術でも古い思想や手法でもなんでもいいのです。
ただ作品そのものが面白ければ。
ぼくはそんなふうに思っています。


第18回文化庁メディア芸術祭